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「や、皆さんどうも遅くなりまして――」
控へ目に坐つて、注いだ茶碗を盆の上に揃へると、
それは直造が案内状を出す間際になつて心づき、入念に考へたあげくに呼ぶことにした高間房一だつた。
「なんだ、さつぱり判らんぞう」
と訊くと、遊び友達と河へ行つたといふ返事であつた。
と、房一は帽子を手にやつた。
と、房一は急いで頼んだ。加藤巡査は一瞬、不安な面持をした。が、房一の態度が決然としていたのと、急策としてはそれより他にないことも明かだつたから、直ちに承諾を与へた。
「はあ、それは――」
房一は熱心に愛想よく椅子をすゝめた。
とにかく、それは遠い向ふで起つていることだつた。対岸の火事を見物するやうなものだつた。
「さやうでござりますか」
房一は持前の人慣れた愛想のいゝ微笑をうかべていた。それは水面にできた波紋がゆるく輪をひろげるやうに、彼の厚い醜い唇からはじまつてしだいに、顔全体をつゝみ、つひに容貌の醜さを消してしまふものであつた。
今度は正文の方で答へなかつた。そして急に苦がい顔になつて、ぢろりと薬戸棚を見まはしただけで母屋おもやの方へ帰つて行つた。